もう10年以上前にブログというのが世に登場した際にスタートした本ブログなのですが、今回で地域活性化ネタについて書く時にナンバリングしていたものが1000を数えました。確かスタートさせたのが、2003年頃だったと思うので、10年くらい続けてきたことになろうかと思います。

ブログエントリーだけでも1000回続けてくると、そのときそのときのニュースや活性化事業のライフサイクル、つまりは盛衰を感じるところですが、各地でのプロジェクトにおいては失敗は繰り返されていきます。あるときに「成功事例」ともてはやされたものが、数年すれば「失敗事例」になっていく。特にプロジェクトが大規模なものであればあるほどに、後に大きな遺恨を残していくものであったりします。さらに失敗したことを隠すためにさらに失敗を続けていくという、負の連鎖が続くと、元々は地域活性化のためのプロジェクトであったはずが、むしろ地域の足かせになっていってしまうこともあります。

何よりこのパターンが繰り返されるというのが一番悩ましい問題です。
この分野に関わる自分としても無力で申し訳ないと思ってしまいますが、なかなかこの問題の構造が認知されずに、過ちが各地域でどんどん繰り返される。実際に行政などの場合にはジョブローテーションがあるので、失敗の構造が全く引き継がれずにリセットされてしまったりします。今年から中心市街地活性化事業に携わった担当者の方は、第一次中心市街地活性化事業のことはもはや歴史の一部レベルで当然、どのような成功と失敗があるのか、失敗の構造を理解する機会がないのです。歴史の伝承がないといいましょうか。

民間でも同様で、10年単位で事業的にまちに関わる続ける人は稀有です。
調査業務など受託事業とかやっているシンクタンクの方とかは別として、普通にまちでの取り組みで事業的に成果を挙げた方でも事業のライフサイクルによって撤退されて、もしくはもう飽きて、別分野のビジネス分野で活躍していたり、など流動的です。結果として、こちらでも失敗の構造などについては伝承されません。

このようなことで、様々な失敗が発生し、さらにはその失敗の構造が伝承されていかない姿を見ていると、悩ましく思うと共に、私はいつも一冊の本を思い出します。

「失敗の本質」です。

読んだことはあるでしょうか。なければ、まちづくりに関わる関係者には必ず読んでください。そして、輪読会をしてください。


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旧日本軍の先の大戦前後において行った戦闘、具体的には、ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ沖海戦、沖縄戦に関する分析を行っています。「なぜ、失敗したのか」と。これを戦争事例研究家だけではなく、経営学をはじめとして組織論等に関する研究家があつまり、学際的に分析したものです。

失敗はいつの時もあります。しかし重要なのは失敗と向き合い、「なぜ失敗したのか」ということを学ばなくては、失敗は繰り返されるわけです。これは世代を越えても、再現されてしまうのが怖いところです。私達は当然これら戦闘に関わっていないですが、ここで犯した失敗の構造は、自分たちが現代において仕掛けるプロジェクトで同じように犯しています。だからこそ、失敗するのです。少しばかり以下に整理してみたいと思います。

■まちづくり・失敗の本質

第一章のケーススタディは読み解いていくと大変意味深い。というよりも、自分たちの身の回りで今でも起きているような「なんでこんなことが」ということに重ねあわせて思考できることが多数ある。しかしながらこれは我々が客観的に読めているからであって、もしも当事者になれば同じことをしかねないのである。

第二章ではこれらケースに見られる共通要素についても整理が行われている。

・戦略上の失敗要因分析(あいまいな戦略目的、短期決戦の戦略志向、主観的で「帰納的」な戦略策定―空気の支配、狭くて進化のない戦略オプション、アンバランスな戦闘技術体系)
・組織上の失敗要因分析(人的ネットワーク偏重の組織構造、属人的な組織の統合、学習を軽視した組織、プロセスや動機を重視した評価)

地域活性化においてもよく見られる問題点ではないだろうか。

戦略レベルでも、「何を達成するものなのか」というのが明確化されているケースは少ない。むしろここを曖昧にして、時に心の活性化みたいな誰もよくイメージできないような耳障りだけで選定されるようなものが多い。

1.短期決戦の戦略志向
「一面で攻撃重視、決戦重視の考え方とむすびついているが、他方で防御、情報、諜報に対する関心の低さ、兵力補充、補給・兵站の軽視となって表れるのである。」(同書より)と書かれている。つまり、攻撃こそ最大の防御の掛け声で一気呵成に逆転を狙う作戦である。
地域活性化でも「これが活性化の起爆剤」という文脈で、とんでもない巨大な再開発施設を開発し、破綻に追い込まれるケースが後を絶たない。施設開発は短期決戦ではなく、長期作戦が求められるもので、開発した後も多額の運営費を稼ぎ出さなくてはならないわけであるが、そんなことは無視してやってしまえばどうにかなるということでやってしまう。結果として、運営費が賄えずに破綻するが、「廃墟にはできない」という話になり、税金を用いて「戦略なき戦力の逐次投入」してしまう。これは負け戦になった時にどうにも勝てないのに、しかし失敗を明らかにしたくない、けれども損も小さくしたいと渋ったトップやその周辺参謀が小規模な戦力を逐次投入して、毎度全滅していってしまった構造と何も変わらない。



◯自治体も巨額の資金を投入したものの破綻した巨大再開発施設。昭和では有効だった一気呵成に巨大で新しいものを建てれば勝てる、という思考。さらに失敗したら今度は関係者は怖気づいて、場当たり的な売買や資金投入でさらに無駄金がかさみ、結果的に市が買い取り、ほぼ全面公共施設化。

2.主観的で「帰納的」な戦略策定―空気の支配
この傾向も見られる。地域の衰退問題は経済的な構造問題であり、論理的に戦略選択をするのではなく、「空気」に飲まれる。これは市民参加型まちづくり、ワークショップ型まちづくりに多く見られる傾向で、「議論の余地のない論理的な問題」を皆で議論をして、その空気で戦略選択をしていったしまう。声の大きな人物(市長や町長、会議所会頭などなど)には逆らえない、もしくは集団協調圧力、もしくは反対による一定のコミュニティからの排除(現代版、村八分)があり、全体の論調をひっくり返すことを個人で行うインセンティブがないため、そのまま戦略が決まってしまったりする。
結論が主観的に決定された後に、それを帰納的に戦略決定するため、論理性などはかけらもない、つまりどんだけ努力しても勝てない構造で戦うことを強いられたりする。まちなかに映画館がないから活性化しない、みたいな話が進んでいってしまい、いつのまにか「映画館があれば活性化する」という主観的な意見をもとにして補助金などをかき集めてまちなかに中途半端な規模のシネコンを作ってしまったりする。しかしながら郊外店のようなグループ経営で一定の集客装置として他の部門利益に貢献すれば財務的に回る構造にしていたり、シネアドなどの広告事業も全国ネットワークで稼ぐのに対して、まちなかのシネコンは当然専門会社をつくって映画上映の事業だけで儲けなくてはならない。しかも初期投資もできないレベルの資金調達しかできない=市場からは「儲からないと判定されている」ものがどうなるかは言うまでもない。

3.狭くて進化のない戦略オプション
かつての戦後成長期の成功体験に基づいた、商業集積としての勝利。商業が集まり、その商業が人を集め、商業で稼ぐ。さらに古くて小さいものを、新しく大きくすることで他より優位性を築く。このような戦略を繰り返して成功していくうちに、現在の競争に負けている状況も外部環境の問題だと処理して、「この戦略そのものに間違えがある」ということにして、戦略オプションを広げようとしていない。評価基準が通行量評価などに置かれるのはその典型性だろう。かつての勝ち方から離れられていないのである。そうしているうちに、郊外との競争ではなく、ネットも登場。ますますもって外部環境変化に合わせて戦略オプションを変更していくべきであるが、皆の思考は停止し、大前提となっているような過去の成功体験に基づく戦略が優先される。

4.アンバランスな戦闘技術体系
まちまちにおいても、ある1点では非常に秀でた店舗がある一方で、他が絶望的に悲惨な店舗があったりする。
それを改善しようとするような全体の商店街や中心市街地経営においても、「イベント」ばかりをやっていたり、「ワークショップ」ばかりをやっていたり、と極めて偏った分野に強い人がすると、その取り組みばかりを行ってしまう。個々についてはかなり突出した手法を持っていたりするが、実際のまちは再生しない。
それは実際の競争力には一定の総合力が必要だからである。各店舗の立て直しもしなければ、ダメな場合には入れ替えもしなくてはならず、同時的なデザインの統一から、資金的な投融資に対するサポートも行い、ビル経営の改善もみなくてはならず、その上でイベントや、そのプロセスを支える上でのワークショップというように複合的に管理をしなければならないのだが、そういうことができない。それぞれが得意分野ばかりを攻めた結果、大変偏った戦闘技術となってしまっている。開発・金融・PBなどの総合力で戦ってくる郊外SCや、超高生産性を持つオンラインストアに全く勝てない。

5.人的ネットワーク偏重の組織構造
これは極めてまちづくり分野で強い。問題などについて白黒ハッキリせずに互いの以心伝心のようなものを重んじる。今でも、地域に住んで、地域に溶け込むことが大切であるというような、衰退問題解決よりも先に人間関係構築を極めて重んじ、属人性を排除した上での課題の構造的把握、解決策、解決するに必要な人材を能力や技能で選抜するということが極めて少ない。
「あいつは俺が昔から面倒見ているからよろしく」みたいな話はざらであるし、「あいつの爺さんが裏切ったから、絶対にあいつにも協力しない」というようなことを言い出す人もいる。さらに、問題が発生したり、拡大しても、人間関係の中における情緒的な解決を求めることが強く、「あいつは一生懸命頑張っているからいいやつだ。仕方ない」とかエライさんが言い出したりして、うやむやなまま終わってしまったりする。これは8にもつながる点である。

合意形成プロセスというのを多重構造で行うのは、結果的に課題解決に必要な合理的手段を生み出すというよりは、この人的ネットワークに依存して皆が合意すれば、責任をとらなくても許されるという風調があるからでもある。つまり失敗しても皆が合意していれば、批判をされないから仕掛ける側にとっては最大限の保険なのである。

6.属人的な組織の統合
まちづくりには「キーマン」が必要だという話。もうこれは私がこの分野に関わってからずーっと続けられている話である。
まちでは行政、民間という垣根もさることながら、小売店と飲食店など様々な組織化が分野別で行われきた。現在はその組織の壁を越えて総合力を発揮する戦いをしなければ、都市間競争、商業集積間競争には勝てないのだが、その組織統合を図っていく仕組み、新たな横断型組織の設置、もしくは組織の統廃合などの制度といったことが志向されない。

キーマンの一言によって複数の組織が統合的に機能することがあれば成果が出るが、そのような力が発揮されない局面では全く機能しない。残念なことにキーマンの力というのは時間的に有限であることが多く、一時期成果がでたまちも、その後全くダメになってしまうケースが沢山ある。

7.学習を軽視した組織
臭いものには蓋である。
まちづくり分野でも、かつて成功事例と言われたケースが失敗事例となっているケースは沢山ある。中心市街地活性化分野だけでも多数を決め、開発系でも区画整理などで売れ残った用地ばかりとかも多数ある。しかしながら、成功事例や成果を表彰する制度はあるが、失敗した内容については都合が悪いためか全く出てこない。

特に成功事例の多くは多額の公的資金を投入したものがみられるわけであるが、それらが100発100中であることなんてなくて当たり前なのである。失敗は必ず起こる。それは誰がやっても同じである。だからこそ、失敗から学ばなくてはならない。誰がその時に意思決定したのか。なぜ事業計画が過大になったのか。含めて、しっかりと情報を整理して、失敗に至るプロセスから問題点を洗い出し、同様のプロジェクトを進める際にやってはいけないことを明確化すべきなのである。しかし行われないために、失敗はくり返されるのである。

実は成功法則というのはメソッド化することは極めて困難であるが、「やってはいけないこと」を明確にすることは行い易い。私たちもAIAの取り組みでの失敗については常に整理をして次に行わないように気をつけている。私が商店街ネットワークという初期に取り組んだ事業開発で失敗したケースについて、大学院時代に自分なりに整理をしたこともあり、今のまち会社設立の段階で同じ鐵を踏まないように常にしている。

8.プロセスや動機を重視した評価
課題解決における論理性や、実際生み出した結果(客観的にも評価できる内容)ではなく、それを率いた人物の熱意や努力を評価する傾向が強く、たとえ客観的成果がでなくても「頑張った」ということで許されてしまったりする。むしろ、論理的で成果を出すけれども、対人能力が低いと「あいつは生意気だ」みたいな話で評価を下げてしまったりすることも多く、いわゆる出る杭は打つという評価が基本となったりしている。

さらにプロセスを過剰に重要視し、「誰から話をしていくか」、「どの会議で説明するか」というようなことを重要視して全く意思決定に関係ない人物たちにまで説明を繰り返したり、「書類が全て揃えばよい」というような書類原理主義みたいなことで結果がむちゃくちゃでも許されたりすることもある。しかし、結果を出すことよりもこのような作法を守ることを大切にしているうちに、そんな作法を守るに値する地域ごと衰退してしまったりするわけである。

■まとめ
簡単にまとめてみましたので粗いですが、読者の皆様も失敗の本質になぞって、今一度自分たちの地域のこれまで行ってきた取り組みの課題を考えてみると、ここで指摘できていないような色々と変更すべき点が見えてくるものと思います。個々の取り組みだけでなく、そもそもの組織、行動パターン含めて見直していかなければ、実は成果って出ないんですよね。

今後ともこのブログでは、まちに関するテーマを色々と取り扱っていきたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。
 


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