様々な都市計画や商業活性化ご専門の先生と、中心市街地活性化関連でご一緒する機会を多く頂いていますが、意見が最も合致するのは「中心市街地設定の範囲が大きすぎる」ということだと思います。

これには現場で事業を推進している仲間でも大賛成です。よく政治的な判断として中心市街地を絞り込めないという意見が出るという話が多くあります。これは米英などのBIDのような特別区システムとは異なり、中心市街地設定を大きくするのと、活性化に投入する予算規模を連動して対象地区に要求するという構造になっていないからです。つまり対象地区の人たちにとって、中心市街地に設定されること=市役所や国から予算を再分配してもらえる、という利権になっているからです。負担が増加すると思えば、そんなことも言わないでしょう。

さて、今日の話はそんな構造下で、まちづくり会社が事業活動するエリアとどう設定すべきか、という話です。中心市街地活性化のために市役所なども出資して設立された会社であれば、市役所が決めた中心市街地の範囲に自動的になりそうです。しかし、市役所の出資比率が低ければ、必ずしもそうなりません。出資を受けていなく、商店街など民間で設立したものであれば、自分たちで考えなければならないです。

利害関係が一致する範囲にしろ、という意見もあります。広範囲に設定すると、駅前と旧中心部など既に競合関係にある地区同士が含まれてしまい、話がまとまらなくなるからです。
歴史的資産が集積しているエリアにし、観光産業でやろう、といったような事業属性から範囲設定することもあるかと思います。

ただ、やはり私は「手持ち資源で戦線は決めるべき」と思います。
つまりまちづくり会社で調達できる、資金、人材などから逆算して考えるべきではないか、ということです。資金力もないのに計画に多額の資金が必要な事業を入れ込むのも意味がないですし、人員がいないのに事業エリアを拡大しても実効性はないわけです。また人材によっても手をつけるべき事業が変わるのも当たり前です。不動産オーナーが集まれば当然ながら不動産経営の課題から切り込むのが自然ですし、テナントが集まれば集客のようなマーケティング寄りにしたほうが実効性が高いかと思います。マネジャーの過去のキャリアにも依存するでしょう。

このあたりは、あまりきな臭い話はしたくないですが、戦と同様かと思います。
人員もいない、統制もとれていない状況で無闇に戦線を広げ、それを維持するために必要な供給ラインも確保できない状況で、広範囲に形だけ対象地区を広げるのは、前大戦における末期日本軍のような状況になります。タテマエだけを重視し、実態はついてこない。何より現場で動くまちづくり会社のマネジャー以下スタッフが、犬死にする可能性が高いです。偉い人たちは「べき論」で話を進め、「あとは気合いだ、頑張れ、まちのためだ」などをいいますが、出来ないことは出来ません。

また実際に自分でやってても「あれもこれも」とやはりなりがちですし、全国の色んなまちづくり会社を回ると同種の話が多いです。

本当は役員などの経営陣がここで意志決定をして絞りこむべきなのですが、多くの場合には「政治的配慮」といったようなことでそのまま放置されることが多くあります。

こないだtwitterで中継TL流した(http://togetter.com/li/122993)、長浜市黒壁も設立時にこのあたりの議論があったそうです。当初、郊外に出来た西武系SCに直接対抗するためにはどの程度資金量がいるか試算したところ、500億円いる(再開発事業などの事業資金)とでて、これは無理だ。直接対抗するやり方では無理だから、小規模な文化・芸術を出してひとまずガラス工芸でいく、と絞り込んでいます。ひとまず9000万円で銀行跡の歴史建造物は購入できたから、残りの出資金4000万円でできることに絞らざるを得なかったという話でもありました。ま、成り行きだったとは笹原さんは話していましたが、自然とやり方を資源規模に併せて設定しています。本当は楽市楽座が設定された商店街全体の再生という意識もあったが、ますばできるのは1つの建物を変えることがせいぜいだから、それに専念することになったとのこと。(ま、商店街と対立されていたというのもあるようですが。笑)

んで、話は戻りますが、つまり適正規模は戦える範囲で、自分たちの武装含めて確認してやらないと、理想論で地区設定をしていては戦いにもならないということです。ゲリラ戦のようにちょこちょこダメージを与えることはできるかもしれませんが、戦況を改善するまでには至らないというところですね。

具体的なケースとお話すれば、熊本市の中心市街地活性化基本計画では、以下の太い黒線で囲った範囲となっています。熊本駅から熊本城、そして中心商店街などを含んでいます。しかし、熊本城東マネジメントは赤線の範囲だけに事業エリアを絞り込んでいます。こう見るとすごい小さく見えますが、そうでもありません。


ズームしたら以下のような感じです。肌色になっているのが商店街のストリートです。縦に上通、下通とメインストリートが走り、路地に入り組んで商業集積があります。熊本城東マネジメントは、発足時に中心商店街の人たちで事業計画を立てていたのでこの範囲になったところもあります。ただ、やはり資金的に300万円程度から開始し、さらに中小ビルオーナーなどによる事業を計画していたので、この規模が限界でした。これ以上色々なエリアから参加者が集まると話自体がまとまらない可能性が高かったからです。

結果的には正解で、明確にこの地区だけを対象に活性化の成果を出すということが共有できています。もし駅前もやります、どこもやります、なんてことにしていたら、進められる事業も頓挫していたかと思います。


札幌市と札幌大通まちづくり会社の範囲も以下のように異なります。大通まちづくり会社は徒歩圏などのイメージを持ちながら大通地区のストリート、地下街など株主エリアを対象エリアに位置づけられています。


このように、無闇にまちづくり会社の戦線を広げるのではなく、できる合理的な範囲に一度整理することはどこでもすべきできないかなと思います。

よく対象地区を広げるが、部会に分けてそれぞれで実行する、みたいな話をしますが、資源を増加させない(つまりは自分たちの負担を増加させずに)で、会議とかだけ増加させても全く問題の解決になりません。むしろ、現場で動いている人間にとって偉い人たちが集まる会議が増加するほど迷惑なことはありません。

まちづくり会社の経営陣の皆様、スタッフを犬死にさせないように戦線を考え直す機会を持たれてはいかがでしょうか。

※東日本大震災後、amazonの在庫が枯渇していましたが、復活しました。