今日も中心市街地活性化ネタを続けます。まちの財務的課題をみてみよう、というのは結構よく初めて事業を組み立てる地域で最初に皆で考えることにしています。「衰退しているよね」とか曖昧な話をしていても埒が上がらないので、不動産オーナーさんたち、テナントさんたちで集まって経営上の課題の話をします。そういう課題の積み上げがしいては中心市街地全体の課題になります。

中心市街地における付加価値は、その都市中心部としての土地の有効活用にあります。駅やバス路線など社会資本整備の中核となっていて生き残っているところは、その希少な土地をいかに効果的に回すか、というテーマがひとつあります。

■利益は「規模」と「効率性」と「継続性」のバランス
あまり資産とかの細かな話は抜きにして、効果的に回すとは、限りある土地で収益を挙げることです。収益で重要なのは、「規模」と「効率性」と「継続性」のバランスです。

当たり前ですけど、全体の事業の規模が小さすぎると事業を維持できないので一定の規模は必要です。つまり利益率だけにとらわれるより、利益実額が重要ということです。
例えば、粗利を取り上げましょう。粗利率50%とれるけど売上が20万円だと粗利実額は10万円になります。ただ粗利率35%だけど売上が100万円ならば、粗利実額は35万円。前者では人は雇えないけど、後者なら地方都市の若手なら雇える。といった具合です。つまり実額で物事の運営構造が変わるのです。

あと効率性はある程度必要ですが、地域事業で暴利を儲けても長続きしません。特に効率性を追求しすぎると、何もしないでお金が入ってくるということを目指しすぎてしまうので、その機能自体の必要性がいずれ問われます。ある程度、コストをかけるべきところにはかけることも必要です。とはいえ、必要でないもの(この判断基準は主観的にならざるを得ませんが)にかけるのは論外です。

何より重要なのは継続性です。不安定な収入100万円が1回入ってくるよりも、ある程度継続できる見込みのある収入が毎月10万円ずつ入ってくるほうが事業としては私は重要だと思っています。ワンショットの収入はあぶく銭のようなもので、やはり継続収入があれば次の一手を安心して打ちやすくなります。

何より利益でも、企業でいう営業利益。つまり「本業で稼ぐ利益」が重要です。適当なラッキーで入ってくる収入をアテにしてはいけません。補助金などはこの類です。これらは営業外収益として捉えるべきで、本業とは区分すべきです。

■中心市街地の2つの収益が連動
中心市街地の収益は大きく2つに分けて整理できます。「不動産収益」と「テナント収益」です。一番川下にあるのは、テナント経営によって生み出される収益です。テナントが利益を上げて、それによって家賃を不動産オーナーに支払って、不動産収益に繋がります。

中心市街地における売上は、土地自体は商業目的で保有していることがほとんどです。「木下家」表札つけてるだけの一軒家ばかりということは、あまりありません(シャッター通りを通り越すと、そういう中心部もありますが)。なので、土地の所有者たる不動産オーナーがその土地の上に建物を建てて、その中にテナントが入ります。テナントさんは消費者の方々にモノを売ったり、サービスを提供して売上をあげます。これが大家さんへの家賃の原資になります。もしくは、不動産オーナーとテナントが一致している場合も当然あります。

■不動産市場環境の逆転
かつては商業は立地商売だから中心部に出店すれば稼げました。何より利用できる土地や建物が少なく、供給側(不動産オーナー)が優位に経った「売り手市場」でした。だから、大家さんというのは偉いという考え方が通用したのです。礼金とかの制度、基本的に貸してやる、みたいな話をするオーナーが多いのはここに起因しています。

が、今は違います。郊外や再開発された駅前、そして従来からある中心部と、複数の立地条件からテナントは比較できる環境にあります。さらに建物も供給過多。つまり、今は「買い手市場」に完全逆転しています。テナント様様の世界です。だから郊外のSCも「フリーレント(無料で店舗を貸してくれる期間)を一ヶ月、三ヶ月、半年とどんどん増してでも借りてもらおうと躍起になっていまます。

ここで重要なのは、テナントにとってはよりリスクが低く、儲かる立地を探しています。特に大手チェーンになればなるほどに彼らは強気です。

■これからの中心市街地の売上の上げ方
このような情勢下で、中心市街地の売上の源泉でもある「テナントに稼いてもらう」ことが難しくなっています。つまり、既存のテナント候補者たちを郊外とかと取り合ったところで、なかなか来てくれないのです。また一部は来てくれたとしても、埋まりきるなんてことはありえません。

ということで、少なくとも2つの対策をしないといけません。

1つは、大手チェーンのような交渉力のあるテナント以外のテナントを探すことです。新たなパイの創造というと格好いいですが、従来意識していなかった借り手を創りだすことですね。従来のように大手チェーンとかばかり誘致しようとするのではなく、「面積を小分けにする」「時間を切る」という2つで、これまでとは異なる借り手に借りやすい環境を作る必要があります。盛岡3rings(http://morioka3rings.main.jp/)や、Mercato3魚町小倉(http://www.mercato3.com/)などは、既存の建築物を新たな借り手に貸しやすく変えたケースとして興味深いです。しかも再開発のような投資資本がいらないので、利回りが非常に高い。


もう1つは、既存のテナントが抜けないようにこれまでしていない努力をすることです。今は買い手市場であることは前述の通りなので、抜けないようにしないといけません。

ただ、テナントだって売れるならば立地変えたりとかはあんまりしたくありません。特に設備投資が伴う飲食店とかはその傾向が強いです。ただテナントがよく売り上げるためには、不動産もいい加減に管理されていてはダメです。例えば、飲食テナントにとっては、綺麗なトイレや明るい通路、配管掃除と害虫駆除とか色々とメンテナンスすべきポイントがあります。

さらに、SCのように販促という視点も重要です。これまでは貸すだけで営業は個別テナントだけでやるのが中心市街地の一般的なスタイルでしたが、「入居すれば儲かる」不動産を作る上では、そのための販促が重要です。

■経費に対する考え方
そんな中、経費についても重要です。

既存店を抜けないようにするためにも低コスト体質を作らないと、「高くて古い」中心市街地の店舗にずっといるほどテナントも無知ではありません。コストをかけまくっていると、低コスト経営を追求している郊外や再開発ビルのほうにシフトしてしまう可能性は高いです。より新しく綺麗で、コストも結構安いなら向こうが強くなってしまいます。相対的な優位性を築くためにも、コストには敏感にならないといけません。だから、熊本城東マネジメントや札幌大通まちづくり会社等でエリア一体型ファシリティマネジメントを実施しています。

なおかつ、コストを絞ることで財務的には大きな効果があります。年間500万円でも地区全体で絞ることができれば、-500万円だったのが、+500万円になります。-500万円は出て行ったら終わりですが、手元に残った+500万円は再投資し、利回りで増やすこともでき、これは複利で回ります。流血を止めて、より積極的な使い方ができるようになるという意味でも重要です。

■全体を見渡して
不動産とテナントの話ばかりをしてきましたが、これらの2つの主体によって生み出される収益が地域内で再投資に回ることが非常に重要なことです。そのためにはテナントに売上機会をしっかりと確立してあげること。不動産経費を観直して、固定費を下げて売上の減少にも耐えられるようにしつつ、テナントに下げられる管理費は下げてあげることが必要です。

このように売上を地域内であげて、経費を下げる2つの効果を作り出せば、財務的な課題は改善の見込みがたっていきます。一方で、体系的にこのいずれにどう役立つか考えずに闇雲にやっていると、財務的な課題解消にはつながらなかったりします。

環境は劇的に変化しているので売り上げ方も変えなくてはならないし、低コスト経営も実現しないといけない。イベントも良いですが、こういう視点で事業を見ることは非常に重要です。

■やるか、やらないか。
やるか、やらないか。と言いますが、本当にここが重要です。
やらないと中心市街地の構造的に不利な財務環境はそのままになります。売り上げる方法も買えられず、高コスト体質のまま進めば、その赤字体質にいずれ完全に潰れきります。

すでにそうなっている中心部も少なくありませんが、現状まで余力がある都市でも、雪崩を打ったように変わってしまう可能性もあるため、常にこういう努力は必要です。

まちづくり会社は、このような中心市街地全体で「どこで売りあげて」「どこにコストをかけて」結果として「どこで利益をあげていくのか」という視点を持つ、簡単なファイナンスの視点は不可欠です。

そして、その分析に対応した具体的な事業を実施していくことは重要です。

■とはいえ、カネカネではなく。
お金の話ばかりになりましたが、これはあくまでこういう視点を持つべきということで、常に金の話ばかりしろ、ということではありません。まちに必要な取り組みをしていくこと、何が今必要なのか、財務課題以外にも色々とあるでしょう。ただし、無い袖は振れないので、しっかりと財務課題を改善していく必要もあります。

ま、ちょいと短く書くつもりが多くなりました。関係するまちづくり会社とはいつもこんな話をしながら事業モデルを組み立てています。

(修正・少し文章を修正入れました。2011/4/19 19:00)
※東日本大震災後、amazonの在庫が枯渇していましたが、復活しました。






















評価:

國貞 克則

朝日新聞出版



¥ 819


(2009-05-13)


コメント:財務に関して全くわからない、決算書読めないという方にとっては基礎中の基礎が分かりやすく整理されています。